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2022.11.28 清香会からのお知らせ

「祝福の響き、ニ長調」校歌のCD制作について 

音楽科 倉田 里香(高校40回生)

創立百二十周年記念として、東京女子学園校歌のCDを制作しました。

みなさまのご協力により、演奏、音質ともに素晴らしいものが出来上がりましたので、ここまでの経緯をご紹介します。

かねてから校歌の音源を残しておきたいという希望がありました。創立100周年のおりにも、顧問をしていたコーラス部とともに学校の教室で録音をとり、CDにもなりましたが、改めて音質・歌唱においてもハイレベルなものをと考えていました。特にここ数年、コロナ禍で縮小された卒業式を見て、せめて校歌は式典にふさわしく華やかな管弦楽で、誰が聞いても立派で素晴らしいものにしたいと思いました。そして令和四年一月、「校歌は学校を映す鏡です」「一度作った音源は貴重な財産となります」という言葉に触発されて、本格的に制作しようと思い、(株)フロンティアヴォイスさんに、CD制作をお願いすることにしました。

その前年令和三年十一月頃より、制作会社に問い合わせをしてサンプルを送っていただき、清香会で相談をしていました。この制作会社にお願いすることにした理由は、

一 学校専門業者であること
二 決まった演奏者と録音スタジオがあること
三 レコーディングに立ち会わせていただけること
四 完成までのシステムが整っていてスムーズであること

加えて、東京混声合唱団による歌唱というのも大変魅力的でした。

ただ、制作会社のサンプル音源を聴いてみると、例えば、高校野球の中継で流れる校歌のイメージが強く、東京女子学園の校歌とは音楽的にも情趣にも全く異なる世界になってしまいます。東京女子学園の校歌は、美しく豊かな響きの和音進行と、女性的で気品があり滑らかな旋律が特徴です。制作会社から送られたサンプルCDは勇壮な応援歌風で、本校の校歌のイメージには合いませんでした。

そこで、管弦楽へのアレンジは作曲家の原雅史氏に依頼することとし、本校の校歌を長年歌い指導してきた私の希望を遠慮なく伝え、原氏はこころよく、その希望を聞き入れてくださいました。

令和四年二月から三月にかけて、これから制作する校歌のCDは、スポーツの大会で使うものではないこと、在校生だけではなく卒業生も乙女の気持ちに戻って、清々しい気持ちで歌うこと、校歌を通して母校への愛着や誇りを持ってほしいという願いを込めていることなどを原氏に説明しました。思いだけでなく、楽譜へ歌唱上の留意点などを書き入れ、その写真をメールに添付する方法を繰り返し、管弦楽版の編曲作業をすすめていただきました。本当に、ここまでと思うほど、遠慮なく何度も何度も希望を伝えさせていただきました。そしてその都度、原氏はパソコンでカラオケ音源を作成し、何度もメールで送ってくださいました。メールでのやり取りでしたが、若い男性の作曲家である原氏にこちらの希望をしっかりとご理解いただき、二管編成での管弦楽版東京女子学園校歌が完成しました。

三月末に、制作会社へ楽譜と参考音源を提出しました。オーケストラ、合唱団、録音技術スタッフ、その他たくさんの人びとが関わるレコーディングの日程はそう簡単には決まりませんでした。その間にはCDジャケットを作ることとなりました。表面は高校二年生の吉澤心春さんがデザインしたロゴマークを使用させていただき、裏面には創立当初からの校舎変遷や棚橋絢子先生の写真を入れて、全体は可愛らしいピンクで女子校らしくデザインしていただきました。

いよいよ七月二十二日、早稲田アバコスタジオにてレコーディングとなりました。

まず新室内楽協会の方がたによる管弦楽版の録音が行われました。百二十年歌い継がれた校歌が、初めて管弦楽で演奏された瞬間に立ち会えた幸せは言葉になりません。一緒に立ち会った清香会副会長小島章子先生は涙があふれていました。

続いて東京混声合唱団の女声の方がたによる歌唱の録音が行われました。生徒以外の人に歌われる校歌を聴いたのも当然これが初めてのことでした。あらためて本校の校歌の歌詞と旋律の美しさや素晴らしさを感じ、誇りに思いました。

八月二日、検聴盤CDを編曲者の原氏、清香会副会長小島先生とともに聴きました。

卒業生も乙女の心にタイムスリップする華やかな前奏、前奏の4小節目で自然と息が入り高揚するような上行するフレーズ、スカートの白線にふさわしい気品にあふれた清らかな歌声、弦楽器と木管楽器の優雅な和音、金管楽器と打楽器のアクセント、2番からはグロッケンの音色で若々しさと可愛らしさを表現し、3番のチューブラーベル(コンサートチャイム)の音色で学園のチャイムを感じて、最後の「人のなかなる人となれ」は気品を保って壮大に鳴り響きます。

心の中で描いていた理想を持ちながら何度も聴き、斉唱の味わいがでるように、また各楽器の音量、バランス、1番、2番、3番と徐々に盛り上がる構成に関してなど、数十か所の修正を、検聴ごとにお願いすることになりました。

オーケストラには二十パート以上あり、それぞれ楽器の音色の特徴や役割があります。

通常の2管編成でフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットが各2本の木管楽器群、ホルン、トランペット、トロンボーン、チューバの金管楽器群、ティンパニー、グロッケン、チューブラーベルの打楽器群、そしてヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの弦楽器群で構成されています。同じ楽器であっても、第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリンという異なるパートがあります。木管楽器、金管楽器も同様、パートが分かれていて同じ楽器であっても違う旋律を奏でます。そのため、オーケストラは二十パート以上という大編成となり、豊かな響きを作り上げています。

これらを私たちが大切にしてきた校歌にふさわしいバランスに仕上げたい。ただ感覚的ではなく具体的に的確に、編集技術スタッフへ言葉で伝えることは本当に難しく大変苦労しました。どうしても妥協したくない、この思いから何度も何度も調整に応じていただきました。

八月二十九日、最終版の予定でしたが、同じメンバーで聴き、あと少しの修正をお願いすることにしました。

この「あと少し」のつもりが、さらに二回調整をお願いすることになってしまいました。

九月末、1000枚のCDが学校に届きました。1枚開封して内容を確認する時は緊張で手が震えました。

事前に郵送を希望されていた清香会会員の方々へお送りしたところ、

「あらためて、いい校歌だと思いました。」
「感激です。泣きながら歌いました。」

と、清香会宛てに大変嬉しいメールが何通も届きました。
ようやく完成を実感しました。

一部の先生方より、管弦楽版校歌がよりいっそう高貴なイメージになったとのご感想をいただきました。これに関して、私なりの解釈をさせていただきます。東京女子学園の校歌はニ長調です。この二長調の性格が元々祝福にふさわしい輝かしいものなのです。わかりやすい例で言いますと、卒業証書授与の際によく使用される「パッヘルベルのカノン」がニ長調です。また、年末になると必ず耳にするベートーヴェン作曲、交響曲第九番、第四楽章のとても有名なメロディー「喜びの歌」もニ長調。ニ長調で作られた校歌は、ピアノ伴奏も素晴らしいのですが、管弦楽の音色によりさらに輝きを増したことになります。

十月末の清香会総会では、ご出席の皆さまとCD音源に合わせて校歌斉唱を行い、会員の方々や先生方へCDを差し上げました。

また、授業ではレコーディング風景の写真を生徒たちに見せて、初のオーケストラ伴奏による校歌をみんなで歌いました。
レコーディングスタジオの写真を興味深く見る生徒、プロの演奏の迫力に驚く生徒、華やかになった校歌を喜んで歌う生徒、「家にCD飾ります」と言った生徒、反応は様々ですが、自分の通う学校の校歌が立派な形になったことを誇らしく思っているのではないでしょうか。

学園では、コロナや校舎建て替えの不安定な状況に加え、共学化という過渡期を迎えています。このような時に「完成されたもの」を皆さまにお届けできることは、本当に嬉しく感じます。私は、中学、高校6年間を東京女子学園で過ごし、その後音楽科の一員として校歌の指導をしてまいりました。

長年、校歌を大切に思ってきましたが、じっくりと管弦楽版に取り組んだこの約半年間で、校歌がさらに愛おしい存在となりました。

東京女子学園の自慢は校歌です。このような形に完成するまで、たくさんの方々にご協力いただきましたことを心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

※この文章の一部は、清香会報第66号に掲載予定です。


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