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2013.08.07 過去のニュース

ナオコへの手紙 2

ナオコへの手紙                                 

浅香 洋一
イラスト:卒業生 Yさん

太平洋の小島を順々にサイパンから飛行機で渡っていくと、バスに乗っているような気分になります。四つ目の島がポナペ。太古、巨石文明が栄えた火山島です。

船乗りが人魚と間違えたという海牛・ジュゴンの住む海の上に六角柱の石材を積み上げ宮殿が築かれました。真夏の太陽に焼かれ、崩れた黒石の宮殿。廃墟となった今、時たま訪れる観光客も、舟をつけるために潮の満ちるのを待たなければならない寂しい所となっています。小1時間の探検がすみ、本島にもどってくると、マングローブの浜辺で蟹取りをしている一家に出逢いました。満月の夜にかけて蟹は出てくるといいます。出てくるのは蟹だけではありません。

 トントンという声が聞こえてきました。その音を聞き付けると、男たちが集まってきます。車座になった中心で、麻縄を束ねたようなものを泥水で洗い、木槌で叩いているのでした。

「サカウ、サカウ、お酒ノコト」と説明され、飲んでいけといわれました。(老人達は少し日本語を話せます)麻縄に見えたものが木の根。泥水は、その根にある種の葉をまぜ、木槌でたたいて絞り出された樹液なのです。唇がしびれ、舌がしびれます。木製の皿に酌まれたサカウを一気に飲み干すと、土地の男達は手を叩いて声を上げました。

この島ではお酒に酔っての事件はありません。サカウの野外のパーティーは、時とともに静かに南国の闇に溶け込んでいきます。強力な鎮静効果を持つために、みんなは幸せに沈みこみ、争いごとがないのです。そして、このサカウを作る槌の音が聞こえた者は、誰それの区別なくパーティーに参加できるといいます。

3昔、巨石を積み上げた人達と今、目の前の男達が同じ血脈なのかどうか。文明が滅ぶには様々な理由があるに違いありませんが、他の文明が戦いの末にこの土地を奪ったとは考えられません。もしそうなら、サカウを飲んでいる人達が、巨石文明を滅ぼした末裔になります。おだやかで、人なつこい彼等の風貌がその考えをうち消します。

「今でも気がむくと石を積みにいっている」
えっと、僕は聞き返しました。

ヤシの葉をゆらして、夜風が渡って行きました。僕は風と夜に抱かれて何時の間にか眠ってしまっていたようです。ホテルに帰って、今度は人魚の夢でも見ようと思います。君の夢になってしまうかも。
(イラスト:卒業生Yさん)


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