ニュース&トピックス

NEWS

NEWSニュース&トピックス

2013.08.05 過去のニュース

ナオコへの手紙 1

ナオコへの手紙                                 

浅香 洋一
イラスト:卒業生 Yさん

1

大きな足でヨチヨチと、ペリカンが僕の前を歩いています。白く塗られた建物の角からあらわれて、石畳の上を通り過ぎていったのです。思いもかけない珍客の登場に驚きました。もっとも、彼(彼女?)の縄張りの島であって、観光客にすぎないのは僕なのです。今、エーゲ海の碧い空の下で手紙を書いています。

ペリカンは、空体力学的に考察すると空を飛べるはずがないといった文章をみたことがあります。確かに、彼は空を飛べそうにありません。腹は出ているし、胴のわりには、たたまれた羽根は短くみえます。それなのに、なぜ?

「それが、どうした」

そんな声が聞こえてきそうな横顔でした。哲学者という人に会ったことはありませんが、きっとギリシャの「哲学」者の風貌は、彼に似ているのではないでしょうか。まっすぐ前をむき、自分の進む道を見据えながら、いきつくことのないゴールにむかって、もどかしく、しかし、せわしなく足を進める。近寄り難い尊厳がそこにはあります。彼の欲求としての思索を妨げてはいけない。地面に画いた図を足で消すような暴挙、日陰などをつくるのはもってのほか。彼の進みたい道を僕は譲ることで、数千年前の哲人に敬意を表しました。

1_2 それにしても、なぜ彼は空を飛べるのだろうか。後ろ姿を見ながら考えたのでした。

と、彼は突然羽ばたきをし、空へ。

は、いきませんでした。また羽根を器用にたたみながら、海岸沿いの道を、人をかきわけながら歩いていったのです。

 ちょっと、嫌な奴かなと思ったのですが、ひょこひょこ動くお尻は飛ぶのは簡単なことで、飛ぼうとする意志があるかないか、それが大切なんだと語っている様でした。

君のもとへ飛んでいけるかな。


「中学ニュース&トピックス」一覧に戻る